紀久子は大学教授宮原雄一郎の妻だ。十四も年上の堅苦しい学者生活を送る夫との味気ない結婚生活。いつか彼女は、毎月自宅で行われる法科学生の集り・二十日会のメンバーの一人、川島郁夫と不倫の恋におちた。--その夜も紀久子は、自宅の近くの林の中で郁夫の激しい抱擁に身をまかせていた。そのとき、突然、二人の目前でタクシー強盗事件が起った。雲間をもれた月光に浮んだ被害者の無気味な姿。二人は現場から逃げた。目撃者として警察に出頭すれば二人の不倫の恋も明るみに出る。思考はめまぐるしく回転した。誰かに顔を見られなかったか、紀久子は不安な一夜を過した。翌朝、平静をよそおいつつ夫を送り出した。女中のさよが、昨夜の強盗事件を語った。紀久子は深い悔恨に涙した。一方、郁夫もラジオで強盗事件を知り、さらにテレビで被害者の家族の悲しみと悲惨な生活を知り、唯一の目撃者として捜査に協力すべ...